旅の途中に。 | 葉的MANHATTAN☆HOUR
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旅の途中に。

【2016.03.03 Thursday 21:07

司法試験が終わりました。結果はまだ先にならないと判りません。
でもね、今回は、どうかなあ。全力を出せれば射程内だと思う、というところまでは来た。でも、その全力が出せなかったのです。試合って「慣れ」もある。はじめてのことが重なって、生まれてはじめてというほど酷い、吐き気を伴う頭痛にも悩まされたりして、自分でも判るミスをしてしまった。できた部分もあるけれど、できなかった部分もある。そして、たぶん、全部できていないと、今回は難しいんじゃないかな。


自宅で毎日勉強しながら、数日に一度は少し外を歩く。自律と抑制の毎日。
そういう毎日も、実は、好きだったりする。


 
ニューヨーク州の試験の厳しさは想像以上でした。厳しい要素はいろいろあるのだけれど、そのひとつは試験科目の多さです。しかも、ロースクールで必須の項目(憲法とか刑法、契約法など)の試験ならよいのですが、よほど興味がなければ履修しないような州に特化した法についてもかなり細かく学び、小論文が書けるレベルまで法を熟知しなければならないのです。現在いろいろ司法試験の制度が変わっている最中なのですが、自分が受けた時点でニューヨーク州では合計20余の法律分野の細かな知識が要求されました。


これ、他の州では全然違うのです。お隣のニュージャージー州は基本の7科目(憲法、契約法、財産法、不法行為法、刑法、刑事訴訟手続、民事訴訟手続)だけ。小論文の難易度もはるかに優しい。でもなぜか受験料は3倍以上の高さ。なぜだ…。


試験準備コースの参考書と自分で付け足して使っていた参考書たち。
要点をまとめる「アウトライン」を教科ごとに作ります。
勉強中はお風呂にも、ベッドの中にもこれを持ち込んで、起きている時間のすべてを使っていた。


 
試験会場は巨大な室内競技場で、陸上競技のフィールドの中(!)に、どわーっと机が並び、あらかじめ割り振られた席で受験します。プラスチックの椅子が固くてお尻が痛かった。持ち物にもとても厳しくて、バッグや携帯電話の持ち込みは厳禁。本やノートも厳禁。持って入ってよいものは、2Bの鉛筆、消しゴム、アナログの腕時計、包み紙から出して透明な袋に小分けしたスナック(飴とかドライフルーツとか。でも包み紙に入っていたらだめ)、水のボトル(あらかじめラベルをはがして何も書いてない状態にしたもの)、薬。これらを、1リットル入りの透明ジップロック袋に入れて持ち込みます。


ティッシュを持っていっていいのか問い合わせたら「ダメ」。なんでも、ティッシュに何か書いて持ち込もうとしたひとがいたとか…。でもそんな付け焼刃で対応できるような情報量じゃないのですが...。


お昼は買いに行っている時間なんてないし、作っている余裕もないから、前の日にサンドイッチを買って、これもやはり包み紙をはがしてラップで包みなおして持って行きました。昼休み中は机の並ぶフィールド内は立ち入り禁止になるので、ぐるりと囲む観客席で、自分たちの「戦場」を眺めながらもそもそとサンドイッチを頬張る…。贅沢を言っている暇はないのです。


試験内容は、種類も範囲も難易度も州によって違いますが、ニューヨーク州の場合は四部構成になっています。


1)全国共通の(といっても、この試験を使うかどうかは各州が決める)四択問題、6時間。科目は憲法、契約法、財産法、不法行為法、刑法、刑事訴訟手続、民事訴訟手続、証拠法。これはかなり細かく難しい。 200問を6時間で解くので、一問につき費やせる時間は145秒程度。数段落に及ぶ長文の問題もあるので読み直す時間はほとんどなく、確実に細部まで読みこなし、引っかけ問題多発の選択問題をこなしていかなければなりません。ネイティブでも時間が足りなくなるひともいます。

2)ニューヨーク州に特化した選択問題、1時間。これもかなり細かいところを突いてくるし、上述のように学校では学んだことのないような細かなところまで聞かれます

3)ニューヨーク州に特化した小論文5題、各45分。出題内容は基本7科目に加え、信託、遺産相続、家族法、担保取引、代理人、複数州にまたがる事件の場合の準拠法、会社法、無過失保険法、州民事訴訟手続法、パートナーシップ、などなど…。

4)架空の法律や判例をその場で与えられ、限られた時間内にリーガルメモや最終弁論などを書き上げる問題解決能力を見る試験。これはMPT(Multiple Performance Test)と呼ばれ、90分。  



きちんと作ったアウトラインに愛着と誇りを感じたりして...。


ニューヨーク州の場合は州に特化した選択問題と小論文、MPTを初日に受けて、二日目に四択問題200問を受けます。
 

自分は普段はプレッシャーに強いのですが、はじめての経験(特に試験関係にちょっと弱い)にはあがってしまうことがあり、今回はそれに加えていままで経験したことのない頭痛と吐き気に悩まされてしまいました。でも、緊張していたのは自分だけではないかも。会場内で会った同じ大学院出身のベン君は「もう27時間寝てないんだ」と呆然としていたし、やはり同じ大学院出身のジ・ユンちゃんは「わたし、昨日2時間おきに目が覚めてた」と言っていたし。
 

会場内にはプロクターと呼ばれる試験官が何人もいて、受験者から出席証明の署名を集めたり問題集を配ったり、不審な行動をする者がいないか目を光らせています。試験問題は開始時間まで絶対に開封してはいけない。でもやはり緊張していたのでしょう、試験前に開封してしまったひとがいて、そのひとはラップトップコンピューターを取り上げられ、手書き回答を義務付けられていました。
 

ちなみにラップトップコンピューターはあらかじめ専用のソフトウェアを入れておきます。会場に入ったらノート類は一切開いてはいけない。すぐに専用ソフトウェアを立ち上げて、試験が終わるまでコンピューターを机から動かしてもいけない。


すべての試験が終わって、嬉しいかなって思ったら、嬉しくはなかった。ただ、真っ白でした。

 

さて、今回はそんなわけで自分の結果は芳しくないんじゃないかな…と予測しているのですが、実は、あまり悲壮な心持ちではないのです。そりゃ一回で受かりたいけど、全力出せなかったのだから仕方がないもの。また受けるしかない。




 
これは、旅の途中だから。旅に「結果」はない。「経過」があるのみ。
でもさ、結果を出すことより、どうしたらいいか考えて、そのためにがんばる、そのことの経過のほうが、ほんとうは楽しいし、好きだな。


自分にとって、弁護士
に「なる」というのは目的ではないのです。それは手段にすぎないし、「夢」ではない。自分の見たい未来はもっとずっと先にあって、それはいま地上に与えられた人生のなかでは、たぶん叶えることはできないけど、もし思いが波及するなら。もし自分にできることをできるだけする、そんな「布石」を打つことができるなら。


試験2日目に見た夜明け。


これまで生きてきたなかでも、いろんな旅をしてきました。生まれ育った国と街を離れて、両親と離れて、ニューヨークという土地に自分の生きる場所を見つけたこと。演劇も、ものを書くということも、法廷やさまざまな司法の場で翻訳をしたり通訳をしたり、司法案件のチームをまとめるプロジェクトマネージャーをしたことも。外側から見たらいろんな違う仕事をしてきたように見えるかもしれないけれど、実は繋がっていて、同じ夢を追うためのその時々に「するべきこと」をしてきたにすぎないのです。


見たい未来は、もっとひとびとがお互いにわかりあえる世界。ヒト科以外の、しっぽや翼や鱗のあるヒトビトも安心して生きていけるような世界。出し抜きあったり誰かを利用することより、みんなが、みんなと、わかちあったりわかりあったりするために、自分にできることをしたい。何をしたら貢献できるだろう? 


法律には実は全然興味がなかったのだけれど、米国の司法制度を知って、それで興味を持ちました。英米の法体系と日本や欧州の法体系との大きな違いは、英米法の柔軟さです。それは、制定法だけでなく判例が法的拘束力を持ち得るからなのだけれど、それだけ書いてもわかりづらいかもしれませんね。説明しようとするとあまりにも長大な文章になってしまうから割愛するけれど、少なくとも自分の目に映った米国の法体系は、「石に穿った大昔の法典みたい」と思っていた日本の法律よりもずっとダイナミックで、人間的で、面白いものだったのです。混沌を極める世界にあって、法というのは、ひとびとがなんらかの秩序や公平さをもたらそうとする絶え間ない努力なのだ。そう思ったら、もっときちんと勉強してみたくなったのです。


自分がいま法律の専門家になったとて、それで地球が救えるなんて錯覚はもちろんないけれど、でもたとえば誰か困っているひとを助けるには法律のことを知っていて、実際に助言ができるほうがいい。愛する「ヒト科以外のヒトビト」のために、たとえば仕事の傍ら何か無料で法律関係のボランティアができるかもしれないし、自分自身がきちんと生活できる基盤を築けば、環境のために募金したいと考えたときもきちんと貢献することができる。
 

うまく伝わるかなあ。もっと美しい文章を書きたいのだけれど、今回は話の内容も堅いので少しぎこちないですね。ごめん。


 
そんなこんなで、いまは少し宙ぶらりん。三ヶ月、毎日、週末も返上、好きなお酒も一切断って勉強してきたから、今月はそんな日常から離れる旅の月です。まずは家族のもとへ帰って、少し「ひとりでがんばる葉之輔君」にお休みをあげよう。


日本は生まれ育った国だけれど、人生の半分くらいは別の土地で生きているから、自分にとってはどんどん異国のようになりつつあります。それと、馴染みのない東京の風景を見ながら、「目に見える」風景の向こう側に、いつか見た時間の向こうの風景を見ている自分がいる。東京を歩くと、身体は「いま」の東京を歩いているのだけれど、心は「いつか」に旅している。
 
なかなか厳しかった冬を越えて、次の旅に出るまでのポケットのような日本の旅。桜にも会えるかな? いつかみた笑顔や、まだ見ぬ笑顔にも会えるかな?

 
author : watanabe-yo
| Living | comments(7) |

この記事に関するコメント
葉さま。
おかえりなさい。
いつも、この地球の上のどこかを前を向いて
葉さんも歩いているのだろうと
自分は元気をもらっています。
まだ続く旅の途中の一休み。
葉さんの大好きな日本の蕎麦などに舌鼓を打って
しばし、ゆっくりなさってくださいね。
どんなに怖くても
あなたはまた旅立つ。
その時は”いってらっしゃい”と見送らせてくださいね。
| EIKI | 2016/03/03 11:42 PM |
試験、お疲れさまでした。
旅の途中。私の今の状況もまさに旅の途中です。まったく若くもないおばさんですが、もっともっと自分に出来ること、学ぶことは?と手探りでいろんな壁にぶつかっています。なぜわざわざ大変な道を歩く(選ぶ)のかと、周りからは言われたりしますが(笑)葉さんが言われているように、これまでのこと振り返ると、バラバラなようで繋がっているとそう思います。実は私もちょうど3月で宙ぶらりんとなります。少しリフレッシュしながらまたぼちぼちと歩こうかなと昨日の夜ぼんやりと考えていたところに、葉さんのブログを読み、思わずコメントしてしまいました。
葉さん、日本でものんびり過ごされてください。
| ちょこまつ | 2016/03/04 7:15 AM |
ふと、葉さんのブログどうなったかなぁ〜?と数年ぶりにたずねてみたら、なんと!偶然にも数日前に更新されたばかりで、ビックリ!!

書店で「やっぱり、ニューヨーク暮らし」を見つけて、わくわくしながら拝読してから、ちょうど10年経ちました。
私がすったもんだの人生を旅している間に、葉さんもあちこち旅をして、ものすごい勉強の人になっていたのですね。

いつか子どもの頃から憧れているニューヨークに住んで、マンハッタンで葉さんとすれ違う夢を、未だに持ち続けている私も、人生の折り返しをとうにすぎ、終活を意識しなければならない年齢になりました。
そんな私の人生の旅も、まだ当分は続きます。
いつかマンハッタンの地に立てる日が来るまで、一生懸命楽しみながら生きたいと思います。

葉さんは今、帰国なさっていらっしゃるのでしょうか。
もうすぐ桜の季節です。
久しぶりに、日本の桜も楽しんでくださいね。
| ゆっきぃ | 2016/03/07 10:23 PM |
ただただお疲れさまでした。私も何年か前に全く違いますが、ある資格を取ってみようと一日勉強したことがあります。朝から晩まで。学校へ行って、夕食後は食卓にノート類を広げて。一カ月くらい。結果は・・ぺけ。その当時はやっていたインフルエンザにかかってしまった。流行っていても学校に行かないわけにはいかず、クラスメートは咳込むやらくしゃみやらで、なんとか切り抜けたつもりで、試験当日発病してしまった。問題を読んで解いても何回解いても合わない。が、発熱してしまってどうして合わないのかわからない。全部解答したけれど、帰宅途中に寒気がして、帰宅後発熱。寝込みました。その後、もう一段回上のクラスに入り直して(最初の授業で、落ちたクラスをもう一度受ける必要はない。出来ているからと言われて)授業を受けていたが、途中またインフルエンザにかかる。もう精神的に弱ってしまい、授業は全部受けたが、受験する気力がなくなって会場に行けなかった。勉強は楽しく、クラスメートも様々ですごく刺激になったけれど。葉さんの勉強が楽しかった気持ちは良く分かる気がします。私の中ではもう一度チャレンジし直したいのと、二度も病気にかかった記憶が混在して迷っています。
葉さんは必ず合格するまで勉強して輝く星となることでしょう。
まず資格を手に入れてからやりたいことがたくさんあるのでしょうね。
いい感じで、つんつく刺激を受けています。
| かえみる | 2016/03/11 3:53 PM |
葉さんの
真っ直ぐで 清らかな文章大好きなので
久しぶりの更新すごく嬉しいです

葉さんの著書
「ニューヨークで見つけた気持ちのいい生活」は読みすぎてボロボロです
読むたびに
カフェオレボウル欲しくなります
(なかなか お気に入りが見つからずの旅です)

日本にしばらくいるんですね
ポケットの中で のんびりして下さい

優しいのんびりした葉さんの言葉も大好きです
少しずつでいいです
また更新楽しみにしていますね♪( ´θ`)ノ
| 桜 | 2016/03/16 12:19 AM |
EIKIさん、いつも優しい言葉をありがとうございます!

ちょこまつさん、お互いに、それぞれに、自分らしい歩きかたで、歩いていきませう!

ゆっきぃさん、マンハッタンですれ違う日を楽しみにしていますよ&#127775;

かえみるさん、それは大変でしたね...。道ってひとつじゃないから、なにがよいのか、その場ではわからないこともありますよね。

桜さん、ありがとうございます。わー、そんなに愛読してくださっているなんて、嬉しいです!! これからもどうぞよろしく m(_ _)m
| 葉 | 2016/04/04 12:37 AM |
ほんとうに更新うれしい!
ブログを再開してくださってありがとうございます。
今、ちょうど「ふだん着のニューヨーク」を読み返していたところにブログが飛び込んできて興奮しています。。
葉さんの言葉を読んで、わたしもがんばろう!と思いました。
いつも勇気と優しさをありがとうございます。
| Kumi | 2016/05/20 4:14 PM |
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渡辺 葉
NY&NJ attorney
writer
translator
interpreter