巴里だより その三 市場へ | 葉的MANHATTAN☆HOUR
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巴里だより その三 市場へ

【2016.04.25 Monday 13:05
 楽しかった欧州の旅を終え、マンハッタンへ戻りました。長い春休みも終わり。でもフランス旅のおみやげ話をもう少し、続けましょう。
 
*  *  *
 
巴里の日曜日。忘れていたけど、欧州では日曜日には多くのお店が休みになるのでした。今回滞在しているサンジェルマン・デ・プレの界隈も、平日と打って変わってひっそり。でもね、にぎやかな一角がありました。それは「マルシェ」、市場!
 
市場、を示すフランス語marchéと、英語のmarketはどちらも、「売り買い」を意味するラテン語のmerxから来ているそうです。
 
ちなみに、英語では値段が「高い」はexpensive、「安い」はcheapと、それぞれ一語で表現できますよね。でも、フランス語では「高い」=cher(シェール)という言葉はあっても、「安い」を示す一語の単語はないのです。では、お財布にやさしい値段のことを、フランス語ではどう表現するのか?

 
ひとつには、pas cher(パ・シェール)。「高くない」、という意味です。

でもね、それよりもっと好きだなって思う言葉は、bon marché(ボン・マルシェ)。「マルシェ」は名詞では「市場」だけど、bon marché(ボン・マルシェ)といえば「良い買いもの」、つまり「お買い得」という意味になります。「安い」じゃなくて「良い買いもの」…言葉の違いといってしまえばそれまでだけれど、フランス語の好きなところは、こういうところ。少し詩ごころがあると思いませんか?
 
さてさて、言葉の世界に少し寄り道をしてしまいました。巴里の市場に戻りましょう。
 
* * *
 
日曜日の朝、まず訪ねたのは、ラスパイユ通りのビオ・マルシェ。「ビオ」というのは「ビオロジック」の略。英語でいえばオーガニック、つまり「有機栽培」という意味です。有機栽培の野菜や果物、薬物を使わずに飼育した牛や山羊のミルクでつくったチーズ、有機小麦やその他の穀物を使ったパン。はちみつやジャム。
 

 
ああ、なんて豊かな! 赤く熟した小さなトマト、新鮮な葉っぱたち、小さな丸い山羊乳のチーズ。かりかりっという音が聞こえてきそうな、こんがり焼けたパン。
 
でもね、うっとりしながらも、ひったくりやスリには気をつけないと。斜めがけの小さなバッグにさりげなく片手を添えつつ歩きます。面白いもので、たとえばニューヨークにいると、相手が英語を話していようが、別の言語を話していようが、肌の色が何色だろうが、ニューヨーカーかどうか、気配で判ります。逆にいうと、巴里ではアジア系でも、服装や気配で「このひとはパリジェンヌ(またはパリジャン)だな」というのもわかるし、おそらく自分は「観光客です」という看板を背負っているふうに見えるはず。なので、いつもより少し気をつけないと…「怯えながら歩く」という意味ではなくて、ただ、前後左右は意識しながら歩くよう心がけていました。
 
さて、ビオのマルシェでは、濃い赤と緑のシマシマが美しいトマトと、熟れた木苺、それからイチジクと木の実が入ったパンを買いました。「わぁ〜」と思いながらあれこれ見て帰ろうと思ったら、美味しそうな匂いが…。
 
野菜のタルトレットのお店、店先でジャガイモと玉ねぎをすりおろしチーズを混ぜたパンケーキを焼いていて、そこから漂う匂いなのでした。

「トマトのタルトをひとつと、そのジャガイモのパンケーキをください」 フランス語で伝えたのですが、店主はこちらを見ると
「ニホンジンデスカ?」(←ニホンゴ)
 
無表情に言われたので、驚き、ちょっと臆してしまって写真撮影はお願いできませんでした。日本からの訪問客が多いのだろうなあ。でも笑顔なし(嫌な表情でもありませんでしたが。単に無表情でした)で言われると、ちょっと複雑(あはは…。だって、わたしはニホンジンじゃないかもしれない。日本育ちの韓国朝鮮籍かもしれないし、中国籍かもしれないし、日系米国人かもしれないし、アジア系のミックスかもしれないでしょ? それに「国籍」ってそもそも人為的なものだし、「何人」だってどうだっていいじゃん。)
 
 しかしそれはともかく、ひとつ買って、はふはふ言いながら齧る。
 

 
店主の意図は知りませんが(ただ単に表情があまりないひとなのかもしれない)、パンケーキは美味しかったです。ラスパイユのビオ・マルシェに行ったら食べてみる価値あり!
 
さて、ひとまず借りているアパルトマンに戻って、木苺やトマトを置いて、身軽になってからまた、街に出ました。お次は「蚤の市」、marché aux pucesを訪ねます。
 
* * *
 
まず行ってみたのは、巴里の南端、ヴァンヴの蚤の市。アパルトマンに誰かが残していったガイドブックによれば、比較的小規模で回りやすい、とのこと。サン・ジェルマン・デ・プレからは、地下鉄で十数分です。駅で降りたらすぐ判るかなと思ったら、下調べが足りなすぎてよくわからず、目の前にあった果物屋のお兄さんに聞いてみました。サリーちゃんのパパ(←昭和世代にはワカル)によく似た、濃い口ひげが印象的な方でした。

「すみません、蚤の市を探しているんですが、どちらに行けばいいのでしょう?」と尋ねると、お兄さんは

「ぬわはははは!!! $$%+#&@**!!」

えええ? $$%+#&@**…ってなんだろう。ちゃんと聞き取れなくてポカーンとしていると、

「わからんかー、ぬわははは! 左だよ! 左にいってまっすぐ!」

なんだったんだろう、からかわれたような気もするけど、厭な感じではなかったからヨシとしよう。果物屋のお兄さんの指差す方向に歩いてみると、ちゃんとありました。
 

 
今回は特に何かを探しているわけではないので、ぶらぶらと歩いてみました。街路樹のある道沿いの青空市で、確かに歩きやすいし安全なのですが、極私的印象としては…少し物足りないかなあ。市場との出会いは、その時々の気分やタイミングもありますね。



ヴァンヴでは、こんな方がひとりでトットットット...と歩いて、市場の見張りをしていましたよ。


 
…ヨシ、ワカッタ。では市場をハシゴしよう!
巴里の蚤の市、といえばクリニャンクール。世界最大規模の蚤の市、とも言われています。数年前に一度行ったことがあるので、ここなら迷わず辿り着けるはず…。とはいえ、いま巴里の北東部は治安がよくないと言われているので、妙な気配を感じたらすぐに引き返そう。そう思いながら、地下鉄で北上しました。
 


巴里のメトロの駅は、こんな感じ。ニュヨークと比べると、地下鉄の車両が短くてびっくり!
駅はニューヨークの地下鉄よりもずっと清潔で、運行間隔も短く、4分くらいで次の電車が来る、という印象でした。



もうひとつ、感心したのはこれ。ニューヨークの地下鉄にも、ひとびとが掴まるための縦棒があるのですが、一本だけなので「スペース争い」あるいは「譲り合い」をしないとみんな掴まることができません。巴里の地下鉄はこんなふうに三叉になっているので、周囲に立っているひとがみんな掴まることができる。極めて合理的!

 
さて、確かに、地下鉄が北にゆくにつれて、車内のひとびとの気配は少し変わっていきます。ニューヨークも地域によってはこんな感じ。少し周囲を意識しつつ(かつ、怖がってはいない感を出すのも大事…あはは、忙しいな)、4番メトロ北の最終地点、「クリニャンクール門」(Porte de Clignancourt)駅へ。
 
 
クリニャンクールの蚤の市は、地下鉄の駅を出てから少し歩きます。
ここは自分の土地勘を信用して歩いたけれど、はじめて行かれる方は事前に通りの名前など頭に入れていったほうがいいかも。駅のそばではサングラスやら時計やらを手に売ろうとする商売人がいっぱいいるし、若干荒っぽい雰囲気なので、この手の「場」に慣れていない場合は十分気をつけてくださいね。(正直いうとフランス語か、せめて英語がしゃべれるほうが安心です。)


駅から蚤の市に行く途中の道では、まったく別の市場が展開されています。売られているのは、Tシャツとか、サングラスとか、廉価な腕時計など。この「別市」を通り過ぎてどんどん行くと、いよいよクリニャンクールの蚤の市です。


上から、
「メトロ、クリニャンクール門」
「アンティカ市場」
「マラシス市場」
「ミシュレ通り」
「蚤の市情報」
「ポール・ベール市場」
「ラントルポ市場」
「ロジエ市場」
「セルペット市場」
 
「クリニャンクールの蚤の市」と一口にいっても、実は幾つかの独立した市場が集まった集合体なのです。屋外に小さな小屋が並ぶ市場もあれば、屋内市場もある。家具屋さんが並ぶ市場もあれば、シャネルやエルメスなど高級ブランドのヴィンテージが並ぶ市場も。

 




家具市場の店先で懸命に見張りをしていたヒト。


もうひとつの家具市場でも、こんなヒトが熱心に店番をしていました。


でもいちばんのおすすめは、迷路のようにくねくねした路地の両脇にヴィンテージの食器や洋服のお店が並ぶ、ヴェルネゾンの市場。メトロの駅から歩いてきて、最初に出会う市場なので、見つけやすいと思います。


ヴェルネゾン市場の路地はこんなふう。細い道の両側にお店が並んでいます。


昼下がりに訪れたせいか、午後の陽を浴びながらくつろぐお店の人の姿も...。



お皿とか、把手とか。「これはなんだろう?」と首をかしげるモノとか。



ああ。これぞ「巴里の蚤の市」という感じ!



我が家にスペースがあったら、こんなお茶セットや、グラスのセットをお迎えしたいものです。



ヴィンテージの洋服やさん。ボーイッシュな女の子が着たら似合いそう! 



こちらは軍の帽子。おかあさんに手を引かれた7〜8歳くらいの子が、「ママ、あれは警察のひとの帽子だよね?」と(欲しい)感全開にしながら見つめていました。


いちばん惹かれてしまったのはこのお店! 眺めているだけで楽しい。
どのポットもすてき! 

 
古いスパイス用の缶を買おうかなって一瞬思ったけれど、マンハッタンのわがアパートは狭くて場所も限られているので今回は断念。いつか、また来るときまで
 
* * *

これぞ巴里の蚤の市! という雰囲気を満喫しての帰り道。
 
メトロの構内に降りて停まっていた地下鉄に乗って数分…。あれ、なかなか発車しないな、と思ったら、アナウンスがありました。全部を聞き取って理解することはできなかったけれど、「手前の駅で怪しい荷物発見」、「警察が来るまでに時間がかかる」、「切符をすでに買ったひとは*&+?*J%*」(←ここ、聞き取れなかった)

念のため、横にいたひとにも聞いてみました。
 
「すみません、英語は話せますか? いまのアナウンス、半分くらいはわかったのですが、わたしはフランス語をあまりよく話せないので…」
 
男性と女性のふたりでしたが、英語が得意というわけではなさそう。でも、親切に教えてくれました。どうやら、わたしが聞き取れた部分(上記)はやはりその通りで、この電車が発車するにはまだ時間がかかるらしい、とのこと。
 
しばらく待ってから、上記のふたりは出て行ってしまいました。まだ車内で発車を待っているひとたちもいたから自分も待ってみたけれど、再度アナウンスがあり、やはり「いつ発車するかは予測できない」とのこと。とは言っても、この駅に乗り入れている地下鉄は4番のみなので、どうすればいいのか。プラットフォームに出てみたら、車掌さんか駅員さんらしきひとを数人が囲んで尋ねているようだったので、そばにいって聞き耳を立ててみました。「このバスに乗ればいい」と、ふたつほどバス路線を教えてもらったので、ひとまず再び地上へ。
 
ところが。バス停に行ってみると、案の定、メトロに乗るのをあきらめたひとたちが殺到していました。これはちょっと怖いし、自分のフランス語は小学生程度なので、何かあってもうまく対処できないかもしれない。
ドル安ユーロ高なので節約できる交通費は節約したかったけれど、土地勘が覚束ないところでは安全一番です。やってきたタクシーに飛び乗りました。運転手さん相手に、「何か怪しいものが見つかったらしくて、メトロが走っていないんです」と報告。
 
実をいうと、米国での暮らしではフランス語を話す機会がほとんどないので、できるだけおしゃべりしてみたくて。「フランス語はあまり上手にしゃべれなくてごめんなさい。でも美しい言語だから大好きなんです」とお断りしてから話してみると、たいていのひとは優しくおしゃべり相手になってくれます。

巴里の北から中心部に行く街並みを眺めながら、十数分のドライブ。地下鉄やバスと比べたらお金はかかってしまったけれど、安全と安心、それに思いがけない市内観光も買ったと思えば、まあよしとしましょう。
 
もう少し散歩したくて、セーヌ河の真ん中のサン・ルイ島でタクシーを降りました。ここは観光名所なので、浅草のように観光客ワンサカ(笑)。自分も観光客なので、むしろちょっとホッとしたり…。
 



サン・ルイ島とシテ島をつなぐ橋は、週末になると大道芸人の舞台になります。
こちらのお兄さんたちは出番を待って小休止。ボーダーのTシャツと赤いネッカチーフがお洒落なので思わずパチリ。
 
* * *

巴里の市場のはなし、少し長くなってしまいましたね。おつきあいくださってありがとうございます。おみやげばなし、まだ続きますよ…


 
author : watanabe-yo
| Living | comments(5) |

この記事に関するコメント
引き続き素敵なレポート有り難う ございます。
やはりクリニャンクールですか。
私も斜めがけにしてバッグ押さえながら
(友人はブラの中にキャッシュ入れてたとかいうけれど(笑) )行きます。

私もティーセットと琺瑯のpotほしくなっちゃった。
| M | 2016/04/26 8:28 AM |
フランス語って 耳あたりが心地よくてかわいらしい響きだなあって思います

タクシーの方と おしゃべりしてる葉さんも
かわいらしいと思いました

葉さんが撮る写真好きです

| 桜 | 2016/04/29 7:49 PM |
葉さま。
パリ日和第三弾&#9835;ありがとうございます!
今回は市場ですね&#9835;
市場はワクワクしますよね〜。
自分はどっか旅行した時は、市場と本屋を覗きます。
この街の人は何を食べてるんだろ〜?
そして、どんな本を読んでるんだろ〜?
って興味が沸くんですよね〜。
パリの市場は味わい深いものがたくさんでうれしくなっちゃうますね〜。
あ、今、思い出したんですが、関頑亭さんという彫刻家の方の著作に書いてあったことで、戦後、日本に帰ってきて、地方を回り、いい陶芸品や彫刻を集めたそうなんですが、二束三文にしかならなかったらしいんです。すべて微妙に傷があったりしたらしいんですが、頑亭さんは、傷があろうがなかろうがいいものはいいものに変わりないとおっしゃってて、感動しましたよ〜。
値段は商売の論理ですからね〜、真の価値とはまた違うものですよね。
あらためて思いましたが、いつも写真も素晴しいですね〜&#9835;
この写真はスマートフォンで撮ってるんでしょうか?カメラを別に持ち歩いて撮ってらっしゃるんですか?
文章でも、写真でも、とっても楽しませていただいてます〜&#9835;
| EIKI | 2016/04/30 9:41 PM |
司法試験合格おめでとうございます。
葉さんの本は、おさかなマンハッタンをゆくから読んでいて、ブログはもちろん、日経ウーマンの連載も好きで読んでいました。
最近、こちらのブログも更新されて嬉しいです。
ツイッターに書かれている事件や、人種について、私も日頃から感じていることもあり、「うんうん」と思いながら読んでいます。
私は東海地方にいまして勤務先は支社で、会社は東京に本社のあります。
入社してもう何年も経ちますが、会社内で、事務系の仕事をしている人を「事務さん」と呼ぶ社風があり、言われたり聞くたびに嫌な感じがします。
同じ事務系の仕事を長年している人が私のことを「うちの事務さんがね・・・」と本社の人に話したりします。
みんな総合職なのですが、ずっと違和感があります。

私は、30代後半で、転職して入った会社ですが、地方なので、今の年齢から正社員で転職するのはかなり厳しいので、その他にも色んな事情があっても、辞めたくてもリスクが高いし、長年のいろんなストレスから体調も崩していて、転職活動をするエネルギーもないのです。

「事務さん」という呼び方が、どうも人として存在していないような、なんとも言えない違和感があります。

一応、女性活躍や子育て応援をしている会社とうことで、世間的には知られているし、アピールしている会社ですが、実際は、ごく一部の女性が優遇されているだけで、特に支社の女性は、見下げられている感じなのです。

こういうのは、どうしたらいいと葉さんは思われますか。

初めてコメントさせていただくのに、長い相談となってしまい申し訳ありません。
| riyo | 2016/05/01 4:30 PM |
Mさん
パリ旅行、楽しんでいらっしゃいましたか? (ああ、また行きたい、、、


桜さん
ありがとうございます!! 写真撮るの、好きです。


EIKIさん
はい、写真はスマートフォン(現在はiPhone 6)で撮っています。本当はカメラで撮りたいのですが、持ち歩きが、つい、、、、。


riyoさん
初めまして。コメントのお返しが遅くなってしまってごめんなさい。
お気持ち、すごく、すごくよくわかります。普通に名前で呼んで欲しいですよね。自分だったら....「わたしはXXXです。名前で呼んでいただける方が嬉しいです」と伝えるのではないかと思います。
もしかしたら、一番わかってもらえそうなひとにまず、少し丁寧に訳を話して、そのひとを味方につけるかも。誰かが名前で呼び始めたら、空気が変わるかもしれません。わかってもらえますように!! 大切なことですよね。
| 葉 | 2016/06/14 1:12 AM |
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渡辺 葉
NY&NJ attorney
writer
translator
interpreter